実力主義

 その薄い背は確かに相応の霊圧を内包しているように思わせるけれど、正直この細い体躯の何処に第三席の力を秘めているのか分からない。

 刀を振るうにはその腕はやや細すぎるように感じるし、何より戦場に立っている彼なんて想像出来ない。
 研究材料の調達に流魂街へ出向くこともままあると言っていたけれど、正直どんな顔をして鬼道を駆使し被験体を確保するのか見てみたいものだ。
 普段から研究室に籠り放しの彼の顔色はいつも何処かに血色を置き忘れてきたかのように青白く、太陽の下で彼を見たとき、溶けやしないかと馬鹿げた心配を真剣に抱いた事もあった。

 そもそも彼が斬魄刀を腰から提げている光景すら、一護は拝んだことが無いのである。

 「なー阿近さん」
 「何だ」

 机に向かって計測値を入力しながら、阿近は短く返事を放った。
 研究に没頭すると周りが見えなくなるのは愚か自分を呼ぶ声さえ聞こえなくなる彼が、いつも自分の呼び掛けには確実に反応を返してくれることが嬉しい。

 「阿近さんってさ、本当に三席なのか?」
 「……ああ?」

 常日頃からの素朴な疑問。別に彼が三席の地位にあることに不満があるから聞いてみた訳ではないのだが、唐突に問いかけられた本人としてはそこまで思考を巡らせる余裕もない。

 「何だ、俺が三席じゃ不満なのか?」
 「え、ああ……そういう訳じゃないけど」
 「じゃあ何だ」
 「…………」

 正直に感想を述べるのは、何だか申し訳ない。第一これらはすべて自分が彼に抱く印象であって、自身は一度も彼と手合わせをしたことなど無いのだから。

 「おら、手ぇ止めてまで聞いてやってんだ。早く続きを言わねえか」
 「……ええと……」
 「…………」
 「…………」
 「……此処に、ついさっき出来上がったばかりの新薬がある」
 「だああ、だって阿近さんって全ッ然強そうに見えねえんだもんよー!一角とかみたいにっ!」

 しまった。
 被験への恐怖がつい舌の滑りを良くしてしまったらしい。
 思わず本音を漏らしてしまったことに彼が機嫌を損ねるのではないかとひやひやしていると、意外にも阿近はあっさりとそれを認めた。

 「ああ、確かに俺は他隊の三席と比べりゃ全然強かねえと思うぜ?」
 「へ?」
 「つーか実戦嫌えだしな。室に籠って研究してる方がずっと良い」
 「……そうなのか?」
 「あたりめえだ馬鹿。誰が好き好んで痛え思いしたがるかよ」

 まあ、お前が戦場で戦って血い流してる時、実力不足で駆けつけてやれねえ事を歯がゆく感じることはあるが――――なんて思いは勿論億尾にも出さない阿近である。

 「俺の場合、三席にいるのは開発局の副局長である産物っつう面が強いからな」
 「……そうなのか?」
 「代々……っつってもまだ局長は二代目だが、隊長と開発局長の兼任、副隊長と室長の兼任、第三席と副局長の兼任が慣例なんだよ。
 俺は局の創設からここにいるからな。キャリア的にみりゃ副局長が妥当、要するにそこに三席が付属する訳だ」

 別に戦闘能力買われて三席やってるんじゃねえよ、と面白くもなさそうに言う彼に、一護は大いに納得する。
 そりゃ、ひ弱そうに見える訳だ。

 ふむふむと納得する一護を視界の端に捉える。今自分が語ったことは紛れもない事実だし、他隊の三席に比べ実力が劣ることも確かだが、ここまで納得されるとそれはそれで面白くない。
 その強大な霊力や卍解を会得した戦闘能力に自分が敵う筈はないというのは重々承知しているが、それでも圧倒的に経験の浅い餓鬼に負ける気がしないというのも正直な話だ。

 ……試してみるか。

 「黒崎」
 「あ、何だ――――――ッ」

 振り向いた刹那、気付けば一護は床の上に平伏している。

 「てめえ、さっきから見てりゃ随分俺が弱いのがお気に召したらしいな?」
 「いや、そういう訳では」
 「確かに俺は霊力でも能力でもお前にゃ敵わねえ只の研究者だが」


 「少なくとも経験は、お前より遥かに積んでんだよ馬鹿野郎」


 造作もなく痩身に倒されたことと、同時に掠めた唇の感触が羞恥と共に頬を赤く染め上げるのを満足げに見下ろすその表情は、相手が紛れもなく自分より幾枚も上手であると感じさせるに不足は無かった。



 一番最初に書いてみた阿一テキスト。
 阿近さんは技術開発局の副局長で第三席。
 過去編のマユリさんのポストを阿近さんが引き継いでる、そんなイメージ。
 自分の中では最早公式設定に近いです。笑
 ひ弱そうに見えて実は凄い強いとか、そう言うのが好き。