曖昧な嘘と掌の温度
「阿近さんって指きれーだよな」
ふと手元を覗き見た一護が零せば、阿近は訝しげな表情で頭上の橙頭を見上げる。
「何だ、いきなり」
「ほら、ここの奴らって皆普段から刀使うからさ、肉刺とか、タコっつーの?恋次とか修兵とか皆すげえ固い手してやがるんだ」
ルキアとか乱菊さんもなんだよな、勿体ねえ。
しきりに己の手を見ながらそわそわと呟く一護に、片目を眇めて一言。
「……要するに俺はいつも室に引き籠って実戦サボっていやがると、もっと真面目に席官としての使命を果たすべきだと、お前はそう言いたい訳だな、ん?」
「ばっ……別にそんなつもりで言ってねえよ!」
ああ、この男はどうして次から次へと自分の何気ない言葉に挙げ足を取れるのか。
真央霊術院を首席で卒業したと嘯いていたのは強ち嘘でもないのかもしれない。
「別に指が綺麗だろうが何だろうが興味ねえよ……まあ、器用に生まれついたのは幸いだがな」
己の手などまじまじと見たこともない。言われて初めて視線を落とすと、成程確かに男のそれにしては先細りで繊細な手と言えるかもしれないが。
くるりと椅子を回し向きやると、一護は己の手をとって弄び始めた。
「うわ、何でこんなに細えんだよ、爪とか綺麗過ぎだろ……つーか阿近さん、手小さくねえ?」
「…………当たり前だ、お前より身長低いんだからな」
嬉々として絡められる一護の手を何気無しに見て、思う。
この手には本来、刀胼胝など刻まれるべきではないのに。何故こんな子供の、その細い肩に重責が乗せられなければならないのだろうか。
「阿近さん」
呼ばれて顔を挙げると、何処か神妙な双眸が此方を見ていた。
「今、しょうもねえこと考えてただろ」
「別に」
「嘘つくなよ」
阿近さん、嘘つくの下手なんだからすぐ分かるぜ?
そう言ってにか、と破顔する子供が妙に気にかかるようになったのはいつからだったろうか。
笑顔の裏に潜む深い心の闇が、いつかその橙を暗く染め上げてしまうのではないかと、柄にも無く憂鬱に思う。
阿近さんはきっと手が綺麗。