覆い隠して、この理不尽な世界から

 それは突然の出来事だった。


 窓がすぱんと綺麗に開いて、橙色の少年が猛然と転がり込んで来る。
 何事かと問おうとすると、早急に窓を閉めた刹那己の血色の悪い唇に人差し指を立てる少年は、そのまま白衣の裾を手繰り己諸共体勢を低く下げてしまった。
 手に持った薬品が零れなかったことに一先ず安堵して目前の少年を怪訝そうに睨むと同時に、その奇行の原因が耳に飛び込んで来る。

 「おらぁ、何処言った一護――――!!」
 「いっちー!出て来ないと剣ちゃんに何されるか分かんないよ―!?」
 「てめぇやちる、一体どっちの味方だ?」
 「ええ――――そんなの剣ちゃんに決まってんじゃん!!」

 莫大な霊圧と大声を携えた黒い風が、窓の外を駆け抜けていくのが見えた。

 喧噪が去り、漸く一つ大きな吐息を吐きだした一護に阿近は憐憫の眼差しを向ける。

 「…………まあ、あんまり無理すんなよ」
 「…………スンマセン」

 それにしてもどうしてわざわざこんなところに逃げ込んできたのか。

 「ほら、ここの外壁って、殺気石っつーの?で出来てんだろ?完全に遮断出来ないにしても、ここに飛び込めば見つからねえんじゃねえかと思ってさ。剣八の奴、霊圧探知苦手だし」


 それに、阿近さんなら絶対上手く匿ってくれると思ってさ。


 にか、と眉間の皺を消さず器用に笑うその頭をぐしゃぐしゃと掻きまわすと、子供はくすぐったそうに身を捩る。

 「…………ところで黒崎」
 「何だ?」
 「いつになったら俺の白衣は綿埃の洗礼から免れることが出来るんだ?」

 言われて初めて、一護は阿近の服裾をつかんだまま床に座り込んでいることに気付いた。
 流石に掃除は行き届いているものの、土足で闊歩される石畳の床はお世辞にも清潔とは言い難い。
 事実、嘘のように白い袂の端が若干ではあるが薄鼠色に染まっている、ような気がする。

 うわ、ごめんと慌てて放し立ちあがった一護に続き阿近もその裾を託し挙げながら姿勢を立て直す。
 そういえば、しゃがみ込んでいたとはいえ一護を目線の下に捉えるのはなかなか新鮮な経験だったと、汚れた袖を引っ張り錯誤する橙頭を見上げながら阿近はそれとなしに考えた。



 技局の壁は殺気石、勝手な設定です。
 阿近さんは一護が剣ちゃんから逃げてくる度仕方なしに匿ってあげていると良い。