甘過ぎる君へ
「甘いもんあんま好きじゃねえって聞いてたから、どうしようか悩んでたんだけど」
乱菊さんにこれなら阿近さんでも大丈夫、って聞いて。
そんな科白と共に差し出されたのは、一つの紙包み。
目の前の書類の提出期限日を見て、ああ今日は現世で言うバレンタインデーなのかと納得する。
「悪いな、気ぃ使わせて」
「俺がやりたくてやってんだから良いんだよ。それより、無理して食わなくて良いんだぜ」
「折角お前がくれたんだ。無理をしてでも一口くらい食うさ」
「…………ホントは酒入りの買おうと思ってたんだけどよ、店員が未成年には売れませんっつーから」
アルコール度数大して高くなかったし、あれくらいじゃ俺でも酔わねえと思うんだけどなあ、とほんのり頬を染めながらぼやく一護に一先ず礼を言って、包みをほどいた。
「…………何だ、これは」
「あ、それな、ドライフルーツっていう…………果物をカラカラに干した奴?にチョコレートが掛けてあるんだ」
「チョコっつーのは茶色いもんじゃねえのか?」
「白いのもあるんだ。ホワイチョコっつって、普通のチョコとはちょっと違う味がする」
奇妙な形態のそれに胡乱気な表情を作り問うと、一護は苦笑いしながら答える。
「中のフルーツはあんま甘くない、つーかどっちかっつーと酸っぱいくらいらしいから、甘すぎねえで丁度良いんじゃねえかな」
つーか乱菊さんってすげえ現世に詳しいんだな。結構有名なメーカーの奴らしいんだけど、俺そんなのあるって知らなかったし。
一護が苦笑いしながら言うのを聞きながら、かり、と小振りの杏大のそれをかじると、口の中に程良い酸味とチョコレートの甘さが広がる。
普段全くと言って良い程甘い物を摂らない阿近としては、一護の、そして乱菊の『甘くなさそう』の定義を一瞬疑いそうになった。
しかしそんな不満を口外する直前、ふと食べかけたチョコレートの断面を見て思考が吹っ飛ぶこととなる。
酸味を醸すフルーツの正体は苺だった。
「…………松本の野郎」
「あ、もしかして美味くなかった?」
「…………安心しろ、お前は何も悪くねえ」
「?」
ぽかんと呆ける一護。乱菊がチョコレートに隠した暗喩に思い当たる様子は全く無い。
…………この菓子が一護の手から阿近へ、それも今日という日に渡るよう仕向けた、乱菊の意図。
相応に汚れた己の思考回路を少しばかり恨みつつ、そして乱菊へどうやって制裁を加えようかと脳の片隅で考えながら、掌に残った甘味を腹いせとばかりに己の口へ放り込んだ。
…………暗喩に関しては、黙って察してくださると幸いです。笑
乱菊さんと阿近さんはお友達、という勝手な設定でした。