確かな絆などなくとも、

 少年が姿を見せなくなってから、幾月が過ぎたのか。幾年が過ぎたのか。
 数えるのも馬鹿馬鹿しくて、いつからか暦を見るのも嫌になってしまった。
 
 魂魄が死神の力に目覚めたからと言って、現世で生活をする分に何ら不自由は無く、また変わりもない。
 強いて変化を上げるなら、普通の人間のそれに比べ強い霊力を宿すが故に虚に狙われやすくなるという事くらいだろうか。
 だが例えそうであっても、それこそ持ち前の力で容易く両断してしまえば済む話で。
 異能力も、些細な日々の欠片に沈むこととなる。
 
 何が言いたいかと言えば、絶対的必要に駆られた時以外少年が身体から離れ死神化する必要は無い、とどのつまりはそういうこと。
 それが四十六室の解答。
 
 呼び起された力がこれまで幾度となく尸魂界の行く末を助けたのは事実で、その活躍は決して蔑ろに出来るものではない。
 しかしかといって、未だ命を落としていない只の人間の魂魄が、無暗矢鱈と死者の司る世界の理に触れて良いものでも、決して無いのだ。
 
 重霊地と判断された空座町には、これまで以上に強い警戒と力ある死神が配属される。
 代行の力が要されることは、この先万が一にもあり得ない。
 従ってどうしても身を守らねばならない――――その時を覗いての死神化、そして尸魂界への干渉を禁ずる。 頭の腐った老い耄れ共の出した結論だった。
 
 
 「失礼します」
 「失礼だと思うなら入るな」
 「またそんなこと言う…………さっき局長が探してましたよ」
 「用件は」
 「新しく申請が来た義骸の件です」
 「ったく…………自分に来たもんは自分で作れっつーの」
 「阿近さんの技術に期待なさってるんですよ」
 「どうだかな」
 
 熟練局員の小間使いとして動かされている、最早下っ端局員というより茶汲み係となりつつあるリンが苦笑いしながら言った。
 阿近さん阿近さんと、口うるさく人の名を紡ぐ未だ変声を完成させていない声が否が応にも重なって、我ながら女々しいと思う。
 
 「阿近さん!」
 「あーはいはい。んな何度も呼ばなくたって聞こえてるっつーの…………何処の室だ」
 「第四解剖室です。さっき涅副隊長に伺いました」
 「今日の験体は何だろうな…………一々扉開けんのが億劫だぜ」
 「血液は落とし難いですからね」
 「全くだ。白衣も新調したばっかだっつーのに」
 
 
 日常は、滞りもなく過ぎて行く。
 研究に没頭し気付かぬうちに迎える朝焼も、締切書類に追われる夕暮も、何もかもが余りにいつもと同じ。
 相変わらずのワーカホリックは自覚している。
 他と一線を引きたがる癖も、崩れない強面も昔から変わらぬまま。
 
 数カ月の間、時折視界に橙の色彩が閃くことがあった。
 約束していた訳ではないけれど、紛れこんだ非日常を日常と錯覚する程度に、定例報告に此方を訪れた際気紛れに顔を覗かせるその姿は、酷く日々に馴染んでいたものだ。
 
 取り巻く今に変わりは見られない。
 出会いが訪れるより以前を引き合いに出すのなら。
 数十年来築かれ来た面白味も何ともないこの日常に、何の亀裂も見出すことは出来ず――――そして、見出そうとも思わない。
 
 翻る色彩が褪せ、自室が淡色に支配されている。ただ、それだけのこと。
 そう思えば、きっと楽だ。



 阿近さん→一護。
 一護は単純に面白そうなものが沢山あるからひょこひょこ技局に顔出してただけ、とかそういう感じ。
 一護→××のお話はままあるけれど、逆ってあまりないなあと思いまして一本。
 私的に、最初は阿近さんからの片想いスタートも素敵だなあと思います。

 云わずと知れた感じですがmuccの歌詞をかじってます。
 あの切ない感じの曲調が割と阿近さんな雰囲気だと思う今日この頃。