君に捧ぐ戯曲

 目の前の子供がどうやら自分に好意を抱いているようだと気付いたのは、何も最近の話ではない。
 というか、そもそもこいつと知り合ってから然程月日も経っていないので。
 俺達の時間間隔に照らせば間違いなく"最近"ではあるのだが、まあ要するに昨日今日の話ではないということだ。
 
 「黒崎」
 「っな、何だよ?」
 
 ほら、また。
 どうにも霊圧感知が苦手なようで、別段霊圧を抑える訳でもなく普通に背後から近づき手首を鷲掴みにしただけでも飛び上がる始末。
 それはさておき、薄い皮膚の下に透ける血管から伝えられる脈拍の速さ、顔面の硬直、頬の紅潮、上擦り気味な声。
 全ての反応が、所謂「好きな相手」を前にした時のそれにぴたりと当てはまる。
 
 自分の何処が如何、子供の琴線に触れたのかは知れないが、上手く操ることが出来れば酷く面白い験体になりそうだと思った。
 切欠は、只それだけ。
 暇つぶし程度の、気紛れで口にした言葉だった。
 
 「お前、俺のことが余程気に入ってるみてえだな?」
 「!そ、そんなことねえよ。つーかどっからそう言う話に――――」
 
 顔を真っ赤にしてきゃんきゃんと喚くので、医学的根拠を交えながら自分の推測をつらつらと述べてやると、やがて観念したのか子供は少し拗ねた顔で肯定の色を示した。
 
 「悪いが、俺はお前のことを何とも思っちゃいねえ」
 「――――っ」
 「だが、そんなお前にチャンスをくれてやる」
 「…………は?」
 「これからお前と顔を合わせる先五回、俺は極力お前に関心を持ってやることにする」
 
 五回の逢瀬の内に、俺を落とせばお前の勝ち。
 落とせなければ、俺の勝ちだ。
 
 お前が勝てば、俺はお前の言うことを何でも一つ聞いてやる。
 その代わりお前が負ければ、俺の命令を一つ聞け。
 
 もしも子供が本気で己に好意を抱いているなら、この賭けはこいつにとって決して歩の悪い物ではない。
 俺がこいつに流されることは億が一にもあり得ないことだが、勝敗にかかわらずこいつは俺の"関心"を手に入れることが出来るのだから。
 それが有機生命体に対する好意という形を取るのか、無機物に対する興味という形を取るのかは別の話だが。
 
 今思えば、そんな下らない遊戯を思いついた時点で俺の思考回路は相応にイカれていたのだろう。
 負けてやる気など到底なかった、などとこの心境で口にしてもきっと負け犬のなんとやらにしかならないに決まっている。
 
 逢瀬の回数は既に両の指では足りない。
 結果を告げないが為に続いている、他愛のないゲーム。
 
 つまらない意地を張るにもそろそろ疲れた。
 久方ぶりにその名を口にして、終章を紐解く頃としようか。



 徐々に本格的に絆されて行く阿近さん。
 きっと彼は、最初の内は素直じゃない。
 そして何だかパロディの方で似たような流れの物書いたような気もしますが見なかったことにしてやって下さい。笑