彼方人へ願うこと。

 時折、その鳶色の目は遠くの空を捉えたまま動かなくなる。
 楽しそうにクラスメイトと笑い合っていても、ふとした瞬間意識が此方を向いていないことがあるのだ。
 
 普段から深く刻まれた眉間の皺と、何処か尖った雰囲気は人を一定範囲内に寄せ付けないに足るものだったけれど、幼馴染の自分にとってそれらは只等しく彼の個性でしかなかった。
 しかし何かを見透かすような、遠くを見るようなその少し哀切を含んだ目は、幾ら共に時を重ねても失せることはなく。
 
 妹達によれば、それは根の深い霊媒体質故なのだそうで。
 また本人によれば、それは只自分の思い過ごしでしかないそうだ。
 
 人に見えないものが見える。
 その感覚が如何なるものなのか、考えても考えても正確に推し量れるものではなかったけれど。
 十字路の片隅、公園の池、歩道橋の手摺、踏切の前。
 何も無い、何も見えない所でふと足を止め、少し痛そうな目をする彼が、少なからずその目に宿る力のせいで負わずとも良い業を負わされているのだということは、何となく分かった。
 
 「黒崎君、今日向こう行くの?」
 「あ?」
 「窓の外、すごい量の蝶」
 「ああ…………お前には見えるもんな。あそこまでいると気持ち悪いっつーか」
 「ふふ、皆黒崎君のことお祝いしたがってるんだよ」
 「あー…………苦手なんだけどな、そういうの」
 「行かなきゃ乱菊さんに怒られるよ」
 「…………帰りにちょっと顔出してくるわ」
 「うん!」
 
 そんな彼の態度が少し変わったのは、去年の夏の終わり頃。
 相変わらず焦点をずらすような目の遣り方をすることや、ぼうっと何もない空間を眺める癖は治っていなかったけれど。
 纏う雰囲気が何処か焦燥を含んだような落ち着きのないものから、地に足のついた堂たるものへと変質した、ように思える。
 
 何より違うのは、目に宿る光の強さ。
 まるで当てもなく彷徨い揺らめいていた先に、拠る場所を見つけたような、還る場所を見つけたような。
 
 何処に心境の変化を見出したのか、また彼を変えたのが何なのか、自分には皆目見当もつかなかったけれど。
 背負う業を分け合う人が出来たのなら、それで良いと思う。
 
 「一護!」
 
 沢山の紙袋とリボンをはためかせて場に背を向けた彼に声をかけると、橙色の幼馴染はくるりと不思議そうな顔で振り向いた。
 
 「あんた、今 幸せ?」
 
 我ながら随分と不可解な訊き方をしたものだと思う。
 しかし一護はきょとんと此方を見た後数瞬で、自分なりに問いの意図を解釈してたようで。
 
 「ったりめーだろ。いきなり何だよ」
 「ん、別に何でもないけどさ」
 「?変な奴だな」
 
 前の彼ならそう、即答なんてしなかった。そう思う。
 今となっては確かめる術も無いけれど、その確信は何処からともなく確かに湧いてくるものだ。
 拠る辺を見つけたその目は、酷く強い。
 
 「織姫泣かせたら、あたしが許さないからね」
 「何だそりゃ」
 
 相も変わらず発言の意図が掴めないと、ここぞとばかりに盛大に眉を顰める。
 誤魔化すように、に、と笑いかけると、此方も取り合えずとばかりに、にか、と大きな笑みを浮かべた。
 
 もう二度と、その笑顔を曇らせることは許さない。
 他の誰が赦そうと、あたしは決して赦さない。
 
 「誕生日、家で祝ってもらうんでしょ」
 「ああ…………まあ、な」
 「何処行くのか知らないけど、ちゃんと帰んのよ。親父さん煩いんだから」
 「へいへい」
 
 見えることは敵わない彼方の人に、竜貴はぎゅっと拳を固めた。
 
 「おめでとう、一護」
 「…………おう」
 
 
Happ Birthday 15



 何だかんだ言いつつ竜貴ちゃんと一護は仲良いんじゃないかなあと。
 一護の微かな心境、態度の変化に竜貴ちゃんは敏感で、知らず知らずのうちに心配してあげてると良い。
 因みにこのお話の流れ的に、竜貴ちゃんには霊力が無いみたいです。霊も虚も死神も見えてない。
 そしてさらに因みに私的にはノマカプ最フェイバリットはウル織なので、一護が阿近さんを選んでも織姫が泣くことは無いよ!
 ていうか阿一のくせに阿近さんが全く登場していないという、分かりにくいお話。攻めが誰でも機能するお話になっちゃったな。
 「見える」は「まみえる」と読んで下さると嬉しいです。