最高気温二十二度

 「なー阿近さん」
 「あ?」
 「阿近さんって、俺のこと好き?」
 「…………はあ?」
 
 思い切り上体を捻ったせいで、何処かの筋を違えてしまったようだ。
 痛む脇腹を気遣いながらもう一度振り返るが、相変わらずオレンジ色の、金平糖のような髪が邪魔をしてその表情は見えない。
 
 「急に何だ」
 「や…………なんとなく?」
 
 一向に此方を振り向こうとしない態度に少しの苛立ちと不可思議が生じて、阿近は重い腰を上げて背中合わせの均衡を崩した。
 膝立ちのままずりずりと移動して漸くその顔を覗き込むと、眉間の皺は少し解れていて。
 固まった顔をふにゃりと崩そうとしたけれど生憎表情筋がそれに追いつかなかった、とでも言いたげな何とも言えぬ顔が、そこに有った。
 
 「俺、幸せだなーって」
 「何だ?そりゃ」
 「阿近さんには分からなくて良いんだよ」
 「…………訳分かんねえな」
 「はは」
 
 年下の面倒を見、厄介な友人の尻拭いをする日々が、まあ変わってしまったものだと自分でも思う。
 さながら何の不安も無く満ち足りた、何の不安さえ抱かない子供の頃に戻ったような気さえする。
 
 「阿近さん」
 「何だ」
 「…………やっぱいいや」
 「言いかけたんなら最後まで言え。気持ち悪いだろうが」
 「内緒」
 「…………」
 「…………」
 「…………一護」
 「何?」
 「好きだぞ」
 「ああ、知ってる」
 
 こつりと音を立ててぶつかる額から、冷やかな熱が伝わって来る。
 三本の突起が当たった所から少しの鈍痛が与えられたけれど、それすらも心地良い午後の昼下がりへ一興を加える欠片でしかなかった。