君のことが好きだから!
恋の寿命は三年らしい。
「おら、何処で寝てんだこの野郎」
「ってえ!」
がつん、と脳天に容赦のない拳を受けて、一護は突如覚醒した意識を持て余したままにずるりと椅子から滑り落ちた。
頭上を仰ぎ見れば酷く不機嫌な顔をした阿近が此方を見ている。
「ったく、こっちは死ぬほど忙しいっつーのに、呑気なことだな?」
「人を呼び付けといて部屋にいない阿近さんが悪いんだろっ」
「文句があるなら涅隊長に言いに行け。俺は悪くない」
指定された時間通りに赴いた部屋に待ち人の姿は無く、待てど暮らせど一向に帰らない部屋の主に睡魔が勝利を宣言したのは昼下がりの麗らかにあって仕方のないことだと一護は思う。
しかし理不尽な怒りを向けられて尚やはり愛想を尽かす事も出来なくて、一護はわしゃわしゃと髪を掻き回す手をどけることも無くむすりとリノリウムの床に胡坐をかいた。
「黒崎君、知ってる?恋の寿命は三年なんだって」
「あー?」
「好きな人と三年以上一緒にいるためには、一番最初に恋をしてから三年の間にまたその人に恋をしなきゃいけないの。恋をし直せばそこからタイムリミットがまた三年延長されて、それをずっと続けることが出来れば、百年でも二百年でも、一緒にいられるんだよ」
「へえ」
ご飯粒を口の端にくっつけながら力説する織姫の言葉を適当に聞き流したのはもう随分と前のことなのに、未だその科白は脳内に焼きついていて、ふとした瞬間に思い返してしまう自分は酷く女々しいと思う。
けれどその理論を幼稚な恋の花だと捨て置くことは、残念ながら一護が葛藤と困惑の末に導きだした感情の名前を否定することになると思うので、散々の葛藤の末、仕方無しに受け入れることにしていた。
「聞いてんのか一護」
「聞いてる聞いてる!あーもう、阿近さんはほんといっつもうるせえな!」
「ああ?」
「俺は今考え事してたんだよ!人の思考を妨げるなって、阿近さん自分でいつも言ってるじゃねえか」
「何だ、改めて俺に惚れ直してたってか?」
「なっ」
そう、例えばこんな時。
人を見下したような、全てを悟ったかのような傲慢な声色にはぷつりと色々なものが切れそうになるのに、文句を言おうと顔を上げたその
先にある表情がやけに柔らかかったり、こんな表現は気持ちが悪いが、慈愛に満ちている微笑みであったり。
そんな時自分は、改めてこの男の事が好きなのだと否応なしに自覚せざるを得なくなる。
初めて出逢ったその日から、ゆうに幾百年の時を経て、今尚彼と作る時に覚える愛おしさと切なさを無くすことは叶わない。
この感情が恋と言うものなのだと知ってから、否、知る前から、顔を合わせる度に胸の拍動はどうしようもなく高まって、期限を迎える余裕も無くタイムリミットは更新され続けて行く。
「るせっ、このナルシスト!」
「地位と名誉を兼ね備え、おまけに頭脳明晰才色兼備だぞ?自分に酔わずにいられる方が可笑しいだろ」
「そういうとこが」
「好きだってか?」
「だーかーらー!」
にやにやと浮かべられる嘲笑は堪らなく不愉快な筈なのに、素直すぎる純情は胸をときめかせ頬を赤くする。
「まあ、そんな俺に愛されている自分を誇らしく思うんだな」
ほら、そんな不敵な笑みまでをも愛おしいと感じてしまう。
外れた歯車を探す暇も無いくらい、貴方に夢中なんだ。
「阿近さんなんか大っ嫌いだ!」
「あーはいはい、俺は好きだからな」
「…………っ」