twinkle, twinkle

 日暮れの時間が徐々に遅くなってきている。
 それでも高校の下校時間に日が姿を見せるには未だ未だ早くて、未だ酉の刻も回らないというのに辺りには暗闇が立ち込めていた。
 
 「…………今日はこの辺で良いか」
 「あー…………これ以上やったら頭パンクしそうだ」
 「何言ってんだ。未だ未だ先は長えぞ?」
 「目の前の課題終わらすの必死な奴に、何てそう言うこと言えんのかな…………」
 
 雑談を交えながらの補講をお開きにして、阿近は化準に白衣を脱ぎ棄てる。
 
 「…………あんた、絶対就く職業間違えたよな」
 「何故」
 「だって、白衣似合いすぎだろ?」
 
 普段から校内で白衣姿を見慣れているということもあるが、それにしても白衣を着ていない彼と言うのは非常に物足りないものである。
 別に毎日毎日薬品を扱うような実験を行っている訳でもないだろう。
 それでも彼が校内で白衣に袖を通していない光景を見るのはごく稀で、きっと本人も相応にそれを気に入っているのではないかと思う。
 どうせなら白衣と切っても切り離せないような、例えば製薬会社の開発チームとか。
 そう言った所に就職するのが似合いでは無かったのだろうか。
 
 「…………お前は、ビブスが似合うからってバスケットボール選手になんのか?」
 「んなわけねえだろ」
 「それと同じだ」
 
 良く分からない例えで話を反らされてしまった一護は、手持無沙汰に鞄を前後に揺らす。
 漸く少ない荷物をまとめ終えたのか、鍵を持って化準を後にする阿近に従って、電灯の消えた廊下を歩いた。
 
 
 *
 
 
 「冬の空って綺麗だよな」
 
 夏生まれの人は冬に弱いなんて話を時偶聞くけれど、一護は冬のきんとした寒さが決して嫌いではない。
 だらだらと蒸し暑い夏より余程潔い気候だと思うし、暑い時に着衣を全て脱ぎ捨てることは出来ないけれど、寒い分には着込むことでそれなりに環境へ順応出来るのが良いと思う。
 何より、冬の済んだ空には星が綺麗に瞬いているから。
 澄んだ空に透ける星の光はささやかだが、それぞれが懸命に来る光を跳ねかえしているのが好ましく思えた。
 
 夜空を見上げながら歩いているので、一護の足取りは少し覚束無い。
 吐きだされる白い吐息も、右へ左へと当てもなく揺れている。
 
 「一護」
 
 呼ばれて前を向くと、少し可笑しそうに笑う阿近が手を差し伸べていた。
 休みの日に二人で出掛けてることはままあるが、公衆の面前で阿近がその身体にふれることを一護は決して許さない。
 それを歯がゆく感じることもあるのだけれど、こうした冬の日は、暗い夜道がそうさせるのか、寒さにかじかんだ指先がそうさせるのか。
 少し躊躇いながらも重ねられるその手が、阿近は好きだ。
 
 「あれが北斗七星」
 「隣に在るのが冬の大三角」
 「それくらい分かるっつーの」
 
 くすくすと声を洩らしながら、それでも夜空から視線を外さず。
 東の空に浮かぶ三日月を何とはなしに眺めながら、一護は言った。
 
 「冬の空って、阿近さんみたいだな」
 
 何が面白いのかは分からないけれど、恋人はとても嬉しそうな笑みを浮かべる。
 その頬に宿る熱が冷めないように。
 受け取った左手をダッフルコートのポケットへ招き、交錯する影を家路へと急き立てた。



 早く書かなきゃ冬が終わってしまう、と急ぎ一本。
 現代物はどうしてもほのぼのさせたくなります。
 殺伐とした戦場に在らず、穏やかな日常もまた一興。