white box, bright shocks

 目が覚めたとき日はもう傾きかけていて、白いカーテンは黄昏色に染まろうとしていた。
 
 「大丈夫か?」
 「…………先生?」
 「ったく、急に倒れるから肝が冷えたぜ…………どっか悪いのか、体調」
 「いや、ちょっと最近眠れなくて…………寝不足?」
 「何だ、恋煩いか?胸ならいつでも貸してやるぞ」
 「う、うるせえっ」
 
 きゃんきゃんと騒いでいる様子はいつもと差して変わらず、少し寝たことで幾分回復もしたのだろうと、阿近は安堵の吐息をついた。
 
 「今何時?」
 「六限が終わる所だ」
 「そっか…………って、俺何時間寝てたんだ?!」
 「化学は二限だ」
 「…………」
 「何が"最近眠れなくて"だ。爆睡じゃねえか」
 「い、良いじゃねえか。別に誰にも迷惑はかけてねえ」
 「倒れてから此処でずっと看てた俺はどうなる」
 「嘘」
 「嘘。俺はそんな暇じゃねえよ。授業が無かったからちょっと様子見に来ただけだ」
 「そっか…………悪いな」
 「気にすんな。良いもん見せて貰ったしな」
 「?」
 「お前の寝顔」
 「…………っ」
 
 ぶわ、と名の音に負けぬ程赤くなる顔が非常に面白い。
 これだから、こいつに関して己は飽きる所を知らないのだ。
 
 「ああ、そうだ」
 
 徐に身をかがめたかと思うと、阿近は小さな紙袋を拾い上げた。
 
 「ホワイトデー。本当は飯にでも連れて行ってやったときに渡そうと思ってたんだが…………その調子じゃ、今日は家に帰った方が良さそうだしな」
 「え、あ…………でも、良いのかよ?」
 「何、大したものじゃねえから。遠慮すんな」
 「ん、じゃあ貰っとく」
 「ついでにこれも」
 
 言うなり柔らかい感触が掠めて、折角色の引いた顔を一護は再び朱に染め上げる。
 
 「ちょ、此処何処か分かってんのか?!」
 「保健室だろ」
 「だったら!」
 「心配無用、カーテンも引いてるし、俺達以外には誰もいな――――」
 
 言いかけたとき、ガラリと扉の開く音がして、文字通り飛び上がりそうになった。
 喉まで出かかった声を、ぱしりと薄い掌が覆う。
 
 「あれ、先生いないね?」
 「鍵開いてるのに…………ちょっと待ったら戻ってくるかな?」
 
 どうやら保健教諭に用のあるらしい女子生徒の声が聞こえる。
 ちょっと待ったら、なんてとんでもない。
 半分乗り上げられたこの状態、この至近距離で一体どれ程の時間を過ごせば良いというのか。
 布で遮られた向こうから視線を外すと、目の前に険しく細められた緋色の瞳があって。 鼓動が否が応にも早まるのを感じた。
 
 少しの間をおいて、諦めたのか生徒が部屋から出て行く気配がする。
 扉の閉まる音がして、一護は漸く詰めていた息を吐き出した。
 
 「…………で、アンタはどさくさに紛れて何しようとしてんだ」
 「それを聞くのか、俺に」
 
 覆いかぶさったまま首筋に埋めた頭が、ぼふぼふと叩かれる感触がする。
 少し名残惜しそうにしながら最後に喉元へ咬みつくと、抑えたような嬌声が漏れた。
 
 「続きはまた今度だな」
 「あってたまるか」
 「ちゃんとマフラー捲いて帰れよ?根掘り葉掘り訊かれんのが嫌ならな」
 「!」
 
 ばっと片手で覆われた部位には、見目新しい赤い痕。
 未だ目尻を染めたまま睨み上げる一護に、阿近は不敵な笑みを漏らした。
 
 「阿散井と小島が迎えに来るそうだ。寄り道せず、まっすぐ家まで帰るんだぞ」
 「言われなくても分かってるよ、先生!」
 「ああ?」
 「…………阿近、さん」
 「フン、分かっているなら良い。じゃあな、黒崎」
 
 扉を開けると、丁度ホームルームを終えたらしい一護のクラスメイトと鉢合わせする。
 挨拶をする生徒たちに後ろ手で返事をしながら、阿近は白衣の裾を翻した。
 
 「大丈夫か、一護」
 「ああ、もうなんともねえ…………悪いな、心配かけちまって」
 「全くだ。貴様が倒れたから、私の実験まで台無しになってしまったではないか」
 「元から俺に任せっ切りだったお前に言われたかねえよ」
 「あれ、これ何だ?一護」
 「え」
 
 啓吾が白い紙袋を持ち上げたのを見て、一護は俄に慌てた。
 
 「え、あー…………それは、だな」
 「決まってるじゃない。ホワイトデーだよね?一護」
 「何?!」
 
 ぐるんと此方を顧みた目尻には、何故か尋常でない量の水分が溜められている。
 
 「お前…………お前と阿散井だけは俺の味方だと思ってたのに…………っ」
 「おい、何でそこに俺の名前が入る」
 「啓吾?」
 「リア充爆発しろ――――っ!!」
 
 わあん、と叫びながら猛烈な勢いで保健室を後にする背を止めることは叶わない。
 
 「あいつ…………なんでそんな簡単に俺が貰ったもんって決めつけられんだ…………俺、男だぞ」
 「まあ、ケイゴは単細胞だから仕方ないよ」
 「身も蓋もねえな…………って、お前も何でホワイトデーとか思ったんだよ?」
 「そんなの分かるに決まってるじゃない」
 
 にこ、と腹の黒さをモノともせず浮かべる笑みは、天使のそれをも凌駕する。
 
 「そんな嬉しそうな顔してる一護、久々に見たもん」
 「!」
 「それにしてもやるねえ、逆チョコあげたんだ?」
 「そ、そんなこと俺がする訳ねえだろ!」
 「まあまあ、そんなに照れなくても良いって」
 「何だ、何の話をしているのだ?」
 「ああ、あのねえ朽木さん。一護が――――」
 「だああ、何でもねえよ!」
 「一護、季節はずれの蚊でもいたのか?刺されてんぞ、首」
 「――――っ!」
 「え、それってもしかして」
 「ああああもう!お前は黙ってろ!!」



 水色はなんとなく二人の関係知ってるんじゃないかなーって。
 ばらしたりはしないけど、それをネタに一護からかってるとか可愛い。
 ルキアと恋次は物凄く鈍い気がします。色事について。