something so cool

「暑い」
「知ってる」

だらりと伸びた声色は心底参っているとでも言わんばかりに疲弊を強く醸し出している。
並んで歩く小道は涼やかな木陰に続いているから、あと数十メートルも行けば少しは汗も引くだろう。

「やっと講座も終わったし、本格的に夏休みだ」
「俺は未だ仕事だけどな」
「生徒いねえのに、仕事って何があるんだよ」
「大人には色々あるんだよ、色々な」
「色々、ねえ…………」

部活動の顧問でもやっていれば、確かに夏季休暇も何も関係は無いのかもしれない。
しかし阿近の担当する科学同好会はあってないような弱小同好会で、活動している所なんて見たことが無い。
否、正確には文化祭なんかで研究の成果を模造紙に広げている所を通りかかった事があるが、お世辞にも充実した内容とは言えなかった。

「どっか行くのか」
「あ?」
「夏休み」
「あー…………特に予定はねえかなあ。ルキアが海だ花火だ祭りだって騒いでたけど」
「浅野は水着だ浴衣だナンパだ、か?」
「良く分かるな」
「楽しむ気満々じゃねえか」
「ルキアと啓吾がな」
「そうやって遊んでられんのも今だけだぞ。来年は受験だからな」
「嫌なこと言うなよ…………」
「まあ、大学入りゃ今よりもっとすげえけどな」
「?」
「大学生活の三分の一は遊びとバイトの為に存在するといっても過言ではない」
「何だそれ」

うだうだと会話を続けるうちに足は陽の当らない薄闇へと踏み入れられていた。
吹き抜ける風が茹だる湿気を吹き飛ばすようで快い。

「蚊取線香」
「が、どうした」
「買って帰らないと…………遊子と親父が買って来いっつってた」
「今時電気の奴使ってねえのか」
「縁側で使うんだと」
「西瓜食べんのか?」
「多分な」
「やっぱり夏満喫してるじゃねえか」
「遊子と親父がな」

日陰と日向の境目にオレンジの髪を煌かせて、道端に開く古い商店へ一護は入って行く。
店の外の今にも壊れそうな木製ベンチには、並べて水鉄砲が置かれていた。
竹製のそれは時代を感じさせて、プラスティックのそれよりも余程風流だ。

待ち呆けること暫し、通学鞄に線香の箱をごそごそと仕舞い込むのと反対の手がずいと差し出された。

「?」
「アイス。暑いし」

袋を開けると、冴えた水色が顔を覗かせる。
取り出してぱきんと二つに割ってやると、一護が堪え切れないと言った体で片方の直方体に齧りついた。

「…………暑い」

不思議と暑苦しさを感じさせない暖色は、予想に反せず夏の空に良く映える。
水気を帯びた柑橘のような爽やかさ。
目の前で揺らめく、佇む向日葵の黄と緑をも凌駕するような蒼と橙の閃光に、阿近は軽い眩暈を覚えた。



 浦原商店。