give me a sweets !


付き合い始めて初めてのクリスマスだからといって、浮足立ったようにテーマパークだのショッピングモールだのに出掛けられるような厚顔と無恥は生憎持ち合わせていない。
だから現在一護は、コンビニの袋を片手に薄暗くなってきた路地をぼんやりと歩いている次第である。

白い袋に入っているのはこぢんまりとしたプラスティックのパッケージ。
僅かにチョコレートが飾り立てる白いケーキは甘さ控え目が売り文句で、決して甘いものが好きではない彼の口にも合うかもしれないと思い行き掛けに購入してみた。
甘党の一護としては少し物足りないというのが本音ではあるものの、既に昨日自宅で行われた盛大なクリスマスパーティーでホールの四分の一程を胃に納めているので、そこにさしたる不満は無い。

要するにこの可愛らしいホワイト・ブッシュ・ド・ノエルは、食べる為と言うよりも、どちらかと言えば折角のクリスマスにケーキの一つも無いのは味気無いだろうという演出程度の意味合いで持参を試みられたのだというのが正しい所なのである。


友人達は今頃どうしているのだろうと、輝き始めた一番星をみてふと思った。

啓吾がクリスマスパーティーを提案し、既に予定の詰まっていた面々に無惨にも一蹴された日は記憶に新しい。
年上のお姉様方と水色が優雅に海外旅行を嗜むのはいつものことだが、織姫が頬を染めて俯きながら約束の存在を口に出したのは少なからず意外だった。
普段の彼女の様子からはそんな事ついぞ想像も出来なくて、ごめんね浅野君、と照れながら微笑まれた啓吾が抜け殻と化してしまったのも無理は無いと一護は思う。
そして部活の合宿だからと竜貴に、家族と過ごすからとルキアに、遠出をするからと茶渡に断られ四重にショックを受けた後ということもあってか、一護が断り文句を口にした時の彼の反応は、それはもう酷いものだった。

「俺は……俺は……」
「おい……啓吾?」

ふるふると言葉少なに立ち尽くす様子へ流石に心配を覚えて、だがしかしその先に続くのが罵倒であることは容易に知れたので一応気遣うふりをしてしかめつらをしながら一護が声をかけると、案の定啓吾は今にも血涙を流さんばかりの勢いで胸倉を掴んで言い寄った。

「お前だけは信じてたのに……!」
「あー……悪い」
「お前だけは俺の同士だと……リア充どもが薔薇色を纏い謳歌する聖夜を共に淋しく虚しさに胸を膨らませ過ごしてくれる仲間だと……!」
「…………」
「聞いてんのか一護!」
「…………だから俺が悪かったって」
「ならせめて答えろ一護!!」
「な、何をだよ」
「誰なんだ、お前の彼女!」
「え」

突如として毅然とした面持ちを取った啓吾に嫌な予感を覚えると、案の定今一番受けたくない質問が飛んできたので、自分としては非常に聞かなかったことにしたかったのだが、

「あー、それ僕も気になってたんだよね」
「えっ、黒崎くん彼女いるんだ!」
「それは私も知らないぞ一護!」
「ム…………」
「私も知らないんだよね。良い加減観念して教えなよ」

総攻めにあって、知れず一護は後ずさって言った。

「お、俺は一言も、彼女がいるせいで予定が空けられないとは言ってねえぞ」
「いや、彼女だ。一護が俺より優先する物なんてそれしか思いつかねえ!」
「それは無いと思うけど」
「お前はどっちの味方だ!」
「ケイゴの敵」
「水色さん?!」
「でも、女の子絡みなのは確実だよね」
「小島もそう思う?」
「そりゃ、そうでしょ。だって一護キラキラしてるもん」

非常に曖昧な根拠を全面に押し出した推察ではあるが、確信を突いていることはに確かなので迂闊な反応を取ることは出来ない。
曖昧な返答を返したが最後、一護の身辺状況を探られれば瞬く間に真実が露見してしまう事は目に見えているからだ。
自分は決して感情を隠すのが上手い方では無いので、そう言う目で観察されればきっと特定人物に対する接し方だけが他と異なっていることに気付かれてしまうに違いない。

しかしこのまま黙っていても状況は打開を許すどころか、ますます悪化していくだろうという持ちたくもない自信を一護は持っている。
眉間の皺を余計に二本も三本も増やし、期待に満ちた六対の目と、少し困ったような一対の目にどうしたものかとたじろいでいると、

「おら、授業始ってんぞ。チャイム聞こえなかったのか」

啓吾の頭上でぱしりと良い音がして、黒い出席簿が薄茶色の髪に振り落とされるのが見えた。
扉の前で立ち往生している七人組が通行の妨げとなったことがお気に召さなかったらしく、普段から悪い目つきは更に細められた瞼のせいでレベルを増している。

「あ、阿近先生」
「何だ、文句があるなら聞くぞ、浅野」
「な、無いです!」
「なら早く席につけ。授業が始められねえだろ……そこ、ぼさっと突っ立ってねえで。お前らもさっさと中に入れ」

絶妙なタイミングで現れた阿近に阻害され、微妙な空気は一瞬で霧散した。
凶相でぎろりと睨まれると竦み上がった啓吾は即刻で席へ移動し、それを皮切りに面々も少し名残惜しそうな顔をしながら科学室の扉を潜る。

「随分楽しそうな話してたみてえじゃねえか」
「…………」

擦れ違いざまにぼそりと耳元へ落とされた言葉に顔を向けると、案の定そこには酷く楽しそうな深緋の瞳が合った。
但し、その表情が笑顔であることに気付いたのは自分だけであると一護は自負している。
眉の無い白い顔が口の端を歪める様子は、他者の目にきっと只管に虫の居所が悪いだけの不健康な面構えとしか映らないだろうから。

「…………阿近先生には関係ねえよ」
「ほう?」

にやにやと浮かべられる笑いは、それはそれで珍しいものだったのだけれど、それ以上に彼が今までの会話を耳にしていた事に対する羞恥が勝って一護は何も言えなくなる。
不機嫌の色を更に深めて、最大数の皺を眉間に刻みながらずかずかと自席へ向かうと、次の瞬間背後からは授業の開始を告げる気だるげな声が聞こえたのだった。


「聞いてたなら早く止めてくれれば良いじゃねえかよ…………」

雪でも降り出しそうな程に冷え込んだ夜空の下で、一護は一人ごちる。
聞き耳を立てるなんて性格の悪い、等とは今更言わない。彼が捻くれているのは今に始まった話ではないからだ。
しかしそれでも不満の一つや二つ言いたくなるもので、かといって聞き手も居ない状況。
周りに通行人の居ないのを良いことにぶつぶつと呟きながら歩いていると、目的の建物を行き過ぎてしまったことに気が付いて慌てて回れ右をした。
その足取りが何処かしら軽やかなのは、透明な硝子戸を潜った先に待ちかまえる聖の浮かれた時間に甘さを期待したから、なんてことは決して無い。



織姫ちゃんのお相手は御想像にお任せ。きっと何処かの破面が隣の学校に通ってるとかそんなお話。
クリスマス本番辺りでささやかなパーティーの中身をちゃんと描ければ良いなあ、とか思ったり思わなかったりしております。