C'est incroyable!
「おら、何ぼーっと突っ立ってんだ。何か反応返せよオレンジ」
「え、いやだって」
理解が追いつかない。
何故引っ越して来たばかりの自分が引っ越しの挨拶に回る前に挨拶をされているのか。
そしてそれが何故阿近さんなのか。
というかそもそも何故阿近さんが此処にいるのか。
「え、いや引っ越すとは聞いてたけどよ」
赴任先の高校が変わるから引っ越すんだろ?何でこんなとこまで引っ越して来てるんだよ。
「…………誰が"赴任先の高校が変わる"と言った?」
「卒業式の日、『俺もこの学校とはもうすぐさよならだな』って言ってたじゃねーか」
「別に転勤すると言った訳じゃないだろうが」
俺が学校とサヨナラっつったのは、大学院と教育委員会の教師派遣契約がもうすぐ切れるから高校教師の職から離れるって、
「そう言う意味だっつーの」
「そ、そんなこと一言も聞いてねえ!」
「あたりめえだろ、言ってねえんだから」
さらりと言ってのける阿近に、一護は再び絶句する。
「で、でも何で俺の家の隣に引っ越してきたんだよ!?」
「あ、それな」
実はちょっと嘘ついた。困惑するお前の反応が久々に見てみたくなってな。
そう言って阿近は徐に部屋へ上がり込むと、一護の財布と携帯を以て出てくる。
「おら、さっさとしろ。行くぞ」
「い、行くって何処へ」
「俺の家」
「はあ!?」
「元々、教師として高校に派遣される前俺はこの近くの大学の研究室に居たんだ」
研究室出て働く気なんて更々なかったから、というか研究室にいるだけで十分生活に困らない程度の給与が貰えるから。
大学の近くに居を構えたのだ、と、勝手にドアの鍵をがちゃがちゃ閉めながら阿近は言う。
「だから、教師を終えて研究室へ戻る俺は当然そこへ戻って来た」
此処からだと大体歩いて五分強。一護の大学までの距離は寧ろ此処からよりも近い。従って、
「お前は俺の家へ来れば良いって訳だ」
「え、要するにそれは」
「俺の家に住め」
「聞いてねえよそんなこと!第一昨日俺は此処に引っ越してきたばっかで――――」
「賃貸契約程度なら俺が何とでもしてやる」
「荷物も運びこんだばっかりだし」
「運送屋に電話しといた。明日にでも俺の家へ運びなおしてくれるそうだ」
「親父達にも言わねえで!」
「あ、親父さんの許可なら俺が取ったぞ?家行って事の次第を話したら、『しっかり者の阿近君なら安心だ』とか言って諸手挙げて賛成してくれたが」
「…………」
「遊子と夏梨も『一兄のこと頼む』って言ってくれてたぞ?」
「…………」
「それとも何だ、そんなに嫌か?俺と家に住むのが」
「いや、そう言う訳じゃねえけど」
「あんだけ合鍵使いまくってたくせに、いざ同棲になると気が進まねえってか?」
「ど…………!?」
「あーもうこの際だ」
お前、俺の嫁になれ。
「…………好きにしてください」
状況把握、ならびに目の前の人物の傍若無人ぶりに順応するのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
C'est incroyable…信じられない
無理矢理引きずって行かれるようです。
阿近さんは押しが強い方が好み。一護は凄く遠慮しがちな子だと思う。